危険な愛に侵されて。



その時ふと、坂城さんが私を視界に入れ。


「いやー、残念ですな。今日はぜひ涼雅さんに縁談の話を持ちかけようと思ったのですが……そちらの女性はやはり涼雅さんの?」


“縁談”

その言葉にピクッと反応してしまう私。



ふと周りが静かになった気がして見渡せば、みな私に視線を向けている。

中にはヒソヒソ話す人もいて、なんとなくわかった。


この人みたいに縁談の話をしようと思っていた人が他にもいるのだろうと。



“若頭”である神田は恐らくみんな避けたい。
なんせ心が読めず、誰もが恐れるほどの危険な相手だ。


けれど雪夜もそこそこ高い位のため、彼を捕まえて婚約を成立させれば───


自分の地位が高くなる、と。

神田組の関わりがある人たちの集まりだ、そういう考えをしている人たちも少なくない。



もちろん自分のため、一家のためなのだから仕方ないかもしれないけれど。

それで雪夜に狙いを定めることに腹が立った私は、彼の腕に自分の腕を絡ませて───



「初めまして。
涼雅さんの婚約者である、御園静音と申します」


にっこりと、満面の笑みを浮かべてやる。

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