危険な愛に侵されて。
「静音」
その場を去ろうしたところでタイミングよく雪夜に名前を呼ばれたけれど───
今、“静音”って呼び捨てしなかった?
「何してんだ?」
「ご、ごめんなさい…涼雅さんを待ってたの」
まあでも“静音さん”呼びは違和感があったから、特に気に留めないでおく。
「もうすぐ若頭の挨拶が前で始まるから、行くぞ」
雪夜は私の手を握り歩き出す。
去り際、女の人たちに視線を向けながら。
「お前、本当に強いんだな」
「……何が」
ふたりで話すなり、“お前”呼びへと変わる雪夜。
少し不服に思いながらも彼を見つめ返すと、少し呆れたような顔をされた。
「逆に言い過ぎなところもあったけどな。
言葉でねじ伏せただろ」
「……ああ、さっきのこと?」
もう終わった話のため、すっかり頭から抜け落ちていた。
あんなの気にしていたら精神がおかしくなってしまう。
「別に言い過ぎたつもりはないけど」
「否定しなかったろ」
「え?」
「色目使ったとかなんとか」
「そんなの否定したところで面倒くさいでしょ」
それなら逆にそこを突けばいい。
あの人たちが色目を使うことなんてできないのは目に見えているけれど。