危険な愛に侵されて。
そして相手の髪を掴み、顔を少し乱暴に上げさせる。
迷わずナイフを首元に突き出し脅す動作をした。
「……敵は?」
思った以上に低い声が出た。
「俺たち、だけだ…」
降参したのか、素直に話す男。
少し声は苦しそうだったけれど、どうやら敵はこのふたりだったらしい。
「武器は?」
「……はっ、持ててせいぜい刃物だな」
まるで敵わないことがわかっているような言い方。
目的は一体なんだというのだ。
「標的は白野未央ちゃん?」
「……願わくばって感じだ」
「は?じゃあ目的は…」
「お前だけ逃げられると思うなよ。“御園静音”」
突然名前を呼ばれ、ドクンと心臓が嫌な音を立てる。
もしかして、こいつらは───
「あんなにも復讐心で燃え上がっていたというのに、何だよ今のお前のザマは!」
会場中に聞こえるような大きさで叫ぶ男。
「……っ、喋るな」
「殺そうとした相手に今はなびいてなぁ!?雪夜涼雅の命狙ってたくせに!」
一瞬にしてざわつく周囲。
元は味方だった黒服男たちが構えの姿勢をとった。
どうやら今の言葉で私を敵と判断したらしい。