危険な愛に侵されて。



そして相手の髪を掴み、顔を少し乱暴に上げさせる。
迷わずナイフを首元に突き出し脅す動作をした。


「……敵は?」


思った以上に低い声が出た。




「俺たち、だけだ…」


降参したのか、素直に話す男。

少し声は苦しそうだったけれど、どうやら敵はこのふたりだったらしい。


「武器は?」
「……はっ、持ててせいぜい刃物だな」


まるで敵わないことがわかっているような言い方。
目的は一体なんだというのだ。



「標的は白野未央ちゃん?」
「……願わくばって感じだ」

「は?じゃあ目的は…」
「お前だけ逃げられると思うなよ。“御園静音”」



突然名前を呼ばれ、ドクンと心臓が嫌な音を立てる。
もしかして、こいつらは───


「あんなにも復讐心で燃え上がっていたというのに、何だよ今のお前のザマは!」


会場中に聞こえるような大きさで叫ぶ男。



「……っ、喋るな」

「殺そうとした相手に今はなびいてなぁ!?雪夜涼雅の命狙ってたくせに!」


一瞬にしてざわつく周囲。
元は味方だった黒服男たちが構えの姿勢をとった。

どうやら今の言葉で私を敵と判断したらしい。

< 289 / 370 >

この作品をシェア

pagetop