始発列車/あるいは誰に届くのかもわからないストーリー
駅にもシャッターってあるんだ。
閉ざされた駅に私はひとり立ちすくんだ。
“終電まで”決められた約束を反故にして遊び尽くした私は今、少々途方に暮れていた。
スマホで確認すると、時刻は4:02。
空が白んでくる気配はまだない。
大学に入って初めてのゴールデンウィーク。
仲良くなった子達と遊びにでかけて羽目を外すなという方が難しい。
親には一方的にメッセージだけ入れたあと無視していたので帰宅するのが恐ろしい。
それでも、どんな嫌味やお叱りを受けようと、今の私の最優先事項はこの友好関係を維持すること。
なんせ私は取り残されることに恐怖を感じてしまうのだ。
友達に誘われたら了承で返さなければノリが悪いと言われて、友達が言ったカワイイやキモイには即座に共感しなければ趣味が悪いと言われる。
かつて嫌というほど痛感してきた。
とにかく話に乗る。
とにかく共感する。
生きにくい世の中を生きるためのスキルだ。
次から次へと流行は流れる。
若者は変化に敏感で、取り残されてしまえばあっさり友情関係は破綻する。
そんなものに固執するなんてバカバカしい、大人はそう言って笑うかもしれない。
そうして得た友情は偽物でも本物でもないのかもしれないのは自分自身わかっている。
だって繋がる未来に、共に笑い合える想像ができない。
最優先事項であるはずのこの友好関係のなんと脆いことだろう。
「薄っぺらい」
呟いた言葉がぐさりと胸に突き刺さる。
本当の友情も、本当の愛も、たった18年の人生では何もわからない。
運命の出会いが、どこかに転がってはいないものか。
友人にしろ、恋人にしろ、私の運命を変えてしまうほどの人が現れないだろうか。
他力本願なことを考えて、ため息を吐いた。
「五十嵐先生、何してるんだろ」
閉ざされた帳に私の呟きが吸い込まれていく。
おとぎ話なら妖精のおばさんたちが魔法で手伝ってくれて、王子様と出会って恋をして結ばれるけれど。
悲しいかな現実には妖精も魔法もない。
恋をしても自分でどうにかしなくちゃ、成就しようもない。
成就しなかった恋は、きっと運命じゃないからだ、なんて浅はかなことは考えないけれど。
運命なんて自分で分かるはずもないのだから、私は動くことすらできなかった。