始発列車/あるいは誰に届くのかもわからないストーリー

電車が到着するのを待つ間、若者らしく充電切れすれすれのスマホを触る事にして体勢を変えた。
動画サイトなど見ようものならあっという間に充電切れのゲームオーバーだろうと思い、青い鳥を開く。
世界は狭く、けれど、一人呟くこの場所はもしかしたらどこよりも広くて。
とても独りよがりで。

一人ずつの言葉が連なっている。
賛同する者、否定する者、言葉で相手を殴りかかる者。己の正義を振りかざして他の者をねじ伏せる者。
正しさと正しさがぶつかりあった時、勝者こそが正義なのだろうか。

「しょせん、どこまで行っても籠の鳥……」

囚われの、というよりは、安全な籠に入れられた。
安全な柵の中から掲げる旗はとっても独りよがりで、バカみたいで、時に世界を傷つける。

充電はもうすり減り、この小さな世界を守るために私はカバンを漁ってバッテリーチャージャーを探す。
繋がれた線から小さな箱に充電が移っていく。

人間の心もこんなふうに簡単にエネルギーがチャージできれば良いのに。
世の中が腐ってるのか、自分が腐ってるのかも分からないけれど、未来を信じる勇気も無ければ命果てる勇気もない。
時間だけが今はただ無為に過ぎていく。
“生きたい”と、渇望している人にこの命を差し出すことができたなら、私の生にも意味があるんじゃないかと思えて仕方がない。
だけどそんなファンタジーがあるわけもなく、ここは現実で。
例えば流行りの異世界に転生するなんだってなったところでそこでもきっと私は無為に時間を過ごすだけで。
この世界はなんの為にあって、私はなんの為に生きているんだろう。

無意味な事を考えていると急速充電されたスマホは28%まで回復していて、神々しいまでに世界は色付いていた。

顔を上げると、目の前にスーツを着た見知った顔があり驚く。
どうやら相手も私を認識して、気まずい顔を見せている。

「五十嵐せんせー……」

先生は学校とは別方向のこのホームにいる。
冷静な頭がそれを告げると、現実が見える。
ツン、と胸を針で刺されたようだ。
それでも涙はやっぱり出そうにない。
言ってしまえば私の恋心など“そんな程度”なものなのかもしれない。
よく言う一過性の憧れのような。
恋に恋するという言葉があるくらいだ。
高校生の私の心はそれを否定しながら『先生なんて好きじゃない』と、心とちぐはぐな言葉を口にしていたけれど、喉元を過ぎた今ならば、憧れと恋の区別をつけられていたのかと冷静に思う。

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