桜の花が散る頃に

虎丸と夏実

[虎丸と夏実]start




あっ…つい。今年は超温気候で、皆バテバテ。
しかも梅雨も抜けず、ジメジメ。

もう時は七月の終わりに差し掛かっていた。

そんな梅雨よりもジメジメしているのが、このホームルーム中の教室の空気。

いつもは元気ハツラツ爽快男の担任 ガッちゃんが、いつになく渋い顔で悩み込んでいるからだ。

この空気に耐えられなくなったのか、夏実がすくっと立ち上がる。

「ガッちゃん、どしたの眉間にしわ寄せて。クラスがじめーっとしてるよ?」

「おー、藍泉、お前もとうとう俺の事をガッちゃんって呼ぶようになったか…」

「え、嫌なの?ガッちゃんってアダ名。」

「いや…気に入ってるよ…別にそんな事どーでもいいんだ、どーでも…。ホームルーム終わろっか…皆お疲れ…」

ハキハキしないガッちゃんに、クラス全員釈然としないまま解散。夏実はイライラしたのか、ガッちゃんが睨めっこしていた紙を取り上げる。

「あ、おいこら藍泉!」

取り上げた紙を夏実と一緒になって見ると、そこにはとある人物の個人情報が書かれていた。

「おおまる とら…てつ?わだち?誰これ?」

「それで“オオガコテツ”って読むんだよ。ほら、窓側一番後ろ端の席開いてるだろ?夏実と一緒で、始業式から一回も学校に来てねぇの。」

俺の説明に、夏実は あーね、と呟く。
そうこうしているうちに、ガッちゃんに紙を奪い返されてしまった。

ガッちゃんは相当激おこ。

「と、ところでガッちゃん、そいつがどうしたん?俺アイツとそこそこ仲良かったからなんか力になれっかもよ!」

話を逸らすついでにそう言って見ると、ガッちゃんは意外にも食いつきを見せた。

「いやな…一学期丸々休みとなると、進級が危うくてだな…何回も電話してるんだが、連絡が取れなくて…俺としては!全員進級させてやりたいんだ!」

うおー、さすが熱血教師。

「えーと、じゃ、学校に連れてきたらいっすか。多分あいつのことだから来たくないわけではないと思うし…多分会える思うけど。」

「おお、本当か!塩谷〜俺はお前のような生徒の担任になれて嬉しいぞ!あとは成績が」

「へいへーい。頑張るだけ頑張るわ〜。」

すぐ成績成績って言わなきゃ良い先生なんだけどなあ。
ま、先生だから言うのか。

とりあえず成り行きでアイツに会いに行くことになりそうだ。
また何かがある予感…。
< 10 / 24 >

この作品をシェア

pagetop