桜の花が散る頃に
「あー、虎丸さんなら大分前から実家っすね。婆ちゃんの具合が悪いとかで。住所教えましょーか?ここからそんな遠く無いっすよ。」

ガラの悪い奴しらみ潰し作戦大当たり、三人目でヒット。

虎丸、どんだけ顔広いんだよ。一匹狼のくせに。
実家の住所バレしてるのもおかしな話だ。

電車を乗り継ぎ教えてもらった住所の家に行くと、そこは古い一軒家で、表札は【松井】となっていた。

チャイムを鳴らすと、中からエプロン姿の大男が姿を現わす。

「よ、虎丸。相変わらず背高えなお前!元気そうで何よりだわー」

すっかり長くなっている髪とピンクのエプロン、それに似合わない腕のタトゥーが間抜けに見えて笑いそうになるのを堪えながら言うと、虎丸は驚いた顔で俺達を見つめた。

「塩谷…と、ガリ勉メガネと、ぶりっ子モデル。と…誰、アンタ。」

「ガリ勉眼鏡!?」

「ぶりっ子モデルって、失礼ね!!」

全然名前覚えてないやん。
その覚え方に更に笑いそうになるのを堪えていると、夏実が俺の一歩前に進んで手を差し出した。

「私、藍泉夏実!今年から編入してきたの、よろしくね!」

今時握手とは、また古風な。

「あ…大丸虎轍です。」

虎丸もドが付くほど素直な性格で、改まって自己紹介のち丁寧に握手を交わす。

厳ついのは見た目だけなんだよなー…

「あー…なんもおもてなし出来ないけど、それでよければ上がって。」

若干困惑しつつも家にあげてくれる虎丸。

学と結城は相変わらずビクビクしている。
夏実は…言わずもがな。

「虎丸君、大きいね!何センチ?羨ましい〜」

…呑気な奴。
少し呆れたが、家に入る時恐ろしいほど丁寧に靴を、それも散らばってた虎丸の物まで揃えるものだから、少し感心した。



俺達は割と広い和室に案内され、一同なぜか正座。

「今お茶出すから…座って待ってて。」


そう言って虎丸が奥の部屋に入っていった。

別に長居する気は無いし、こっちは勝手に訪ねてきてるんだし、良いのに…

「虎丸君、私手伝おうかー?」

夏実が虎丸に聞こえるように大きめの声でそう言った直後、襖で仕切られた向こう側から、か細い声がした。
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