桜の花が散る頃に
その発言に、夏実が小声の意味もなく、

「それはダメ!」

と立ち上がる。
また男三人は唖然。結城は、ウンウンと頷いているだけ。

「さっきトイレ行った時にね、おばあちゃん、この家が大好きだって言ってたから。だから施設はダメだよ。あとね、虎轍には、大学までちゃんと出てほしいとも言ってたよ。だから学校辞めるのもダメ!」

いや、言いたいことは分かるけど、虎丸の考え全否定はちょっと…

下を向く虎丸に、夏実は続ける。

「だからね、ヘルパーさんを呼んだらいいと思うんだ。そしたらおばあちゃんが施設に入る必要も無いし、虎丸君が学校辞める必要も無い。さっきおばあちゃんに聞いたら、おばあちゃんは要介護認定されてるんでしょ?問題ないはずだよ。」

その提案は的を射てはいるが、ただ、

「そんな金、無えよ。ばーちゃんが残してくれてる俺の学費くらいしか…」

問題はそこだよな。資金繰が無い。
今の時代年金も大したことないし、どう考えても難しい。
みんなが頭を抱える中、夏実だけは真剣にスマホに何かを打ち込んでいた。

「おばあちゃんの様子からして身体介護…ヘルパーさんを平日 一日10時間呼ぶとして月平均21日前後…1時間の料金がこんだけで、210時間、更に昼と晩の食材調理で…うん、ひと月に、約5万2千円!」

高校生に5万はきつ…と思ったが、虎丸は驚いた顔をして、夏実の見せた携帯の電卓画面を見つめた。

「そんな安いなんて、ふざけてる。藍泉さんの計算だと1日約2500円、10時間で考えてるなら1時間に250円だぞ。そんな仕事の割に合わない賃金でやってる訪問介護なんて聞いたこともねぇ。それにもしあったとしても、俺は信用できねぇ。」

ごもっともだ。
俺は虎丸の話を聞くまで一切1時間いくらとか分からなかったが、聞けば何となくわかる。

要するに時給250円って事で、そんなのはあり得ない。
俺でもそんな格安で介護しますーなんて言われて任せられないわ…家の物盗まれそう。

しかし夏実は、全くめげず、大丈夫、と言い張る。
なんでそんなに自信を持って大丈夫と言えるのか分からなかったが、それは夏実が開いたとある会社ホームページの項目画面を見て一瞬で理解した。

【社会福祉法人 養桜 訪問介護サービス】

レビュー☆4.8、コマーシャルもやっている今介護福祉の団体で一番安心安全と言われている、養桜。

虎丸はその料金表をまじまじと見たが、やはり最大手でサービスも手厚い為、夏実が言った金額とは程異なる。

上げられて落とされた虎丸は、柄にもなくカッとして夏実の胸ぐらを掴んだ。

「お、おい、やめろ!!虎丸!」

制止も聞こえないほど頭に血が上っているようで、夏実は壁にダンッと背中をつける。

「他人事と思ってバカにしてんの?俺、嘘つくやつだけは許せねえんだ。」

今の虎丸は、まるで虎丸じゃないみたいだ。
結城と学はやはり不良は不良だと俺の後ろで怯えている。

まずい、本当に殴り兼ねない…


「私嘘はつくけど、出来ないことは言わない。月5万2千円、出来るから言った。人の話を最後までちゃんと聞きなよ。」

夏実の鋭い目付きと相俟って、吐く言葉も氷のように冷たく感じる。
これはあれだ、結城を助ける為に国見達に見せたあの顔と、同じ…

夏実の言葉に我に返ったのか、虎丸は慌てて手をパッと離した。

「ご、ごめん!女に手出すとか俺どうかして…」

「相当疲れてるみたいだね。そんな疲れてるとこ悪いけど、話は一応聞いてもらうよ?」

その場一同、顔色の悪い虎丸も、夏実の前に座りゴクッと息を飲む。
< 14 / 24 >

この作品をシェア

pagetop