桜の花が散る頃に
「まず、おばあちゃんは要介護認定がされてる。だから金額の1割負担で大丈夫なの。となると、普通に計算してもひと月では8万強って訳。」

夏実に指差されるまま料金表を見ると、たしかに1割負担の場合の料金もちゃんと載っていた。

夏実はまた続ける。


「で、ここからが本番。詳しい事情は話せないけど、えーっとホームページの左の…あ、ここ。」

夏実はホームページの左下、VGTと書かれた部分をタッチすると、何やらパスワードやらを打ち込む画面が出てきた。

それに軽々と英数字を打ち込むと、ホームページが再読み込み。
さっきと同じページに見えるが、料金表に書かれている料金が少し違う。

ハッキリ言えば、さっきより安い。

「こっちのページは、養桜をバックアップしてる企業やスポンサー専用の特別料金表。こっちの料金票で計算すると、ひと月約5万2千円になる。でもひとつ問題があって、特別料金でサービスが利用できるのは三年まで、それ以降はひと月に8万強になるんだけど…」

「…あのさ藍泉さん、簡単に言うけど、それ企業やスポンサー専用なんだろ?俺は何の企業にも入ってないし、到底無り」

「私にアテがあるに決まってるじゃん。その代わり契約主は私名義、請求書は私の家に送られてくるのを私から虎丸君に渡すことになるけど、特に問題は無いよね?」

夏実の説得力のある話に、虎丸は考え込む。

悪い話じゃない。
というか、勿論良い話だ。

でも、俺には何か引っかかっていた。

博識とか安く済むとかそう言うことじゃなくて、夏実の言い方だと、

“自分は養桜のバックアップ会社かスポンサーの人間だ”

と言っているみたいだ。

専用ページのパスワードを知っていたり、自分にアテがあると言ったり。

夏実は何か隠してるんじゃないか…そう、直感的に思った。


「ここからは虎丸君の話だけど、10時間っていうのは、11時から夜9時までを想定してるの。これは、学校が終わる4時からヘルパーさんが帰る9時まで、虎丸君がバイトする為の時間なのね。週5で5時間働けば、月に大体9万は稼げる。卒業までの間、約5万を介護費に、残りは虎丸君の自由って事。」

この短時間でよく練られた計画に、虎丸はゴクリと唾を飲み、口を開いた。

「でも…今日会ったばかりの藍泉さんに迷惑かけるわけにはいかねーよ。それに藍泉さんは、俺が金を払わずにトンズラするかもとか思わねえの?あんま知らない奴信用するもんじゃねーよ。」

虎丸の目は、寂しそうだった。
本当はお婆さんの為にも話に乗りたいけど、初対面の夏実を信用出来ない、そんな風に感じた。
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