桜の花が散る頃に
「虎丸、夏実はいい奴だから心配す」
「あのね、虎丸君。正直言うと、ここに来て君に会うまで、私頭の中でとんでもないチンピラを想像してたの。実際の虎丸君も見た目は怖いし。」
俺のフォローをぶった切って何言い出すかと思ったら…!
「…でもおばあちゃんと話したら、すぐに君がすっごい優しい人なんだって分かったよ。だっておばあちゃん、君の話しかしないから。虎轍は優しい、虎轍はかけがえのない孫だって。あと、『私の体調が悪いせいで虎轍は学校にも行けてなくて申し訳ない』ってさ。」
夏実の話に、一緒にお婆さんに付き添っていた結城も、ウンウンと頷く。
それでも俯く虎丸に、夏実は続けて言った。
「私はね、何かについて一緒に語る、考える事を友達って言うと思うんだ。その場以外で君が私をなんと言おうと、君が私に何を言われてようと、たった一瞬一緒に考える、それだけで友達だと私は思う。」
深いような深くないような、とにかく俺にはわからない言い回しに、虎丸の視線は夏実に向いた。
「さっき、なんで初対面の人間を信用出来るかって聞いたっけ?そんなの赤の他人なら信用なんか出来ないよ。ただ私は、自分の友達の事は疑わないし裏切らない。」
友達は疑わないし裏切らない。
その言葉に、俺と学と結城はお互いの顔をまじまじと見つめた。
そういえば、授業をサボった理由を体調不良と偽った時も、「なら寝てろ。」とか言って無理矢理保健室に寝かせられたりした。
嘘をついている事はバレてると思うのに、“嘘でしょ”とは一度も言われたことが無い。
でもそれって信用でも何でもなくて、
ただ、追求しない方が幸せだから…?
「だから私にとって虎丸君は友達、友達が困ってる時には出来るだけのことはする。それだけさね。なんか哲学みたいになっちゃった…」
てへへと笑う夏実につられて、虎丸もフッと少し笑った。
そして気が抜けたのか、そのままバッタリ倒れ込んで眠った。
相当疲れが溜まってたんだろうなー。
俺以外の三人は、各自予定があるとか言って撤退していった。
学と結城は、虎丸が苦手ってだけだと思うけど、夏実は何やら定刻までに帰らないとまずいとか何とか。
明日には訪問介護の申請書類を届けるって言っておいて、と夏実から伝言を預かった。
夏実も、そんで虎丸も、ほんと良い人すぎる。
あの行動力、見習わないとな…
虎丸の寝顔を眺めながら、自分の不甲斐なさを実感していた。