桜の花が散る頃に
そして翌週。

待ち望んだ補習の日が来た。



ーあ、語弊。

「塩谷ぁ!!!いい加減にしろテメェ何回同じ事言わせんじゃぁ!!!」


補習は待ち望んで無い!!!
寺杣先生鬼だし本当やだ無理怖い。

でも、今日はなる早で終わらせて、


「寺杣先生、この文法って形容詞が…」


何故か何事も無かったかのように勉強に励む女 夏実に、あの日の事を聞かなければ。


俺は一番嫌いな英語を補習と再テスト二回でクリアし、その後空き教室で椅子を円に並べた。


夏実が中心に座り、足を組む。
にこやかな表情だ。


「…さて!今から時計回りに発言権を認めます!質問は一人1つ、一周で終わりね!それじゃ涌井氏どーぞ?」


夏実を尋問するのかと思いきや、主導権は夏実。
相変わらず訳わかんない子だ。

他の3人も、顔を見合わせている。



涌井学のターン。

「…僕はこの一週間色々考察をしてみた。ただ、“千夏”という人物が誰なのかハッキリしない限り話が進まない。」

…質問の仕方下手くそか。
要するに、Q.千夏とは誰?って事だろう。

夏実の返答。

「藍泉千夏。千の夏でチナツ。私の双子の弟で、高校一年の一学期までは雪走高校に通っていた。今年の二月に死んだ。ハイ、涌井氏の質問ターン終了〜」

予想外と答えに、俺達は呼吸が止まった、ような気がした。
何より、平然と「死んだ」と言った事に驚いた。


「千夏が死別した弟…?では何故夏実は千夏を」

「ストップストップ、涌井氏のターン終了だって!ハイ、次!祥子の番ね!」


この謎のシステムも謎だし、やけに陽気な夏実も謎だ。
本来、陽気であるはずがない。



結城祥子のターン。

「あ、じゃあえっと…夏実は、私達が後つけた事、やっぱり怒ってる?…よね…?」


大事な事だけど、それ聞かなくても怒ってるに決まってる。
だから土下座覚悟で今日ここに来た。

夏実の返答。

「うん、怒ってる。すっごくね!でも同時に少し嬉しかったんだー、私が何か隠してるんじゃ無いかって見破られたのが。私、バレないように気を付けて生活してたつもりだったからね!だから、十分に謝罪は聞いたし、もう後つけてたことについては何も言わない。ハイ、祥子のターン終わり!次、虎丸ね!」


嬉しかった、と言った夏実の言葉は、本当だと思った。
俺はこの返答から、ある可能性を考えざるを得なかった。


夏実はこの事で苦しんでいて、助けを求めているのではないか。


虎丸の次は俺が質問する番だと言うのに、何を聞こうか、どう聞けば夏実を傷付けずに済むか、全くなにもまとまらない。


虎丸のターン。

「…俺は別に、いいや。何も聞かなくて。」


夏実の返答。

「なんで?罪悪感でーとかならやめてよ?」

「いや、夏実が話したくないなら無理に話してもらう事でも無い。何があっても夏実は夏実だろ?だから俺は、夏実が苦しんでるなら力になってやりたいから話してほしい、ってだけ。無理に聞こうなんて最初から思ってねーわ…。」


虎丸がこの中で、一番大人だ。
あの日虎丸が言ったことも、正論だった。
俺達はただ、夏実に隠し事をされたのが嫌だっただけだ。

ガキだっただけだ。


虎丸の言葉に、夏実は興味深そうに「へぇ〜」と頷く。

そして俺は、夏実になんと聞くかを決めた。



「じゃ、最後、秋人氏のターンね。どーぞ!」


陽気な夏実も全て嘘だったなら、俺は本当の夏実が見たい。


「助けが必要?」


俺が聞いたのは、その一言だけだ。
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