クールな弁護士の一途な熱情
言ってやった、スッキリした。
驚いてたな。頬叩かれて、目丸くしてた。
これでやっと踏み出せる。
新しいブランドで、これまでの経験を活かしながらも一から頑張るんだ。
ひとりになって、それまで張り詰めていた気が緩んだのか、不意に涙が込み上げる。
にじんだ視界に足を止めて俯くと、涙はぽろぽろ、と地面に落ちた。
それは、悲しい涙じゃない。彼との確かな決別を表しているようだった。
すると突然、青いハンカチが視界に入り込む。
「え……」
これ、誰が……。
驚き顔を上げると目の前に立っていたのは、ハンカチを差し出す静だった。
白いシャツが太陽の光に反射して、眩しい。
「あれ、かわいい子が泣いてると思ったら入江だった」
わざとっぽく言って笑う彼に、ハンカチを受け取り涙を拭った。
「……なんでここにいるの。ストーカー?」
「失礼な。俺は弁護士として別れ話が円満に解決するか見守ってただけ」
泣き顔を見られるのが恥ずかしくて、ついかわいげなく言うと、静は笑う。
「事務所であいつと待ち合わせの電話してたの聞いてさ、心配だったから」
そういえば、上原さんとの待ち合わせの連絡をしたのは、週末金曜日の昼休みだった。
室内には誰もいなかったから事務室で電話してしまったけれど、静は部屋の外で聞いていたんだ。
でも、心配だからってわざわざ来てくれるなんて。彼の気遣いが嬉しい。