クールな弁護士の一途な熱情
「私、先帰るね」
「あ、それなら俺も帰るし送ってくよ」
森くんがそう言って私の腕を掴もうとした、その時。
「入江」
突然名前を呼ばれたかと思うと、静に腕を引かれた。
「わっ、えっ、静?」
「俺が送る」
静はそう言って、私の腕を引き歩いていく。
戸惑いながら振り向くと、みんなは私以上に驚きぽかんとした顔でこちらを見ていた。
これは、みんなにあらぬ誤解を与えてしまうのでは?
「ちょ、ちょっと静」
しばらく歩いてきた先で静はようやく、足を止めた。
「いいの?女の子たちみんな、静といたかったんじゃないの?」
「別にいいよ、興味ないし」
バッサリと言う静は、私の腕を掴んだまま。その顔はどこか不機嫌そうだ。
「入江こそ、森とずいぶん仲良かったじゃん」
「そう?久しぶりだったからかな」
森くん?
なぜ彼の話が出たのかはわからないけれど、その話題から彼との会話を思い出す。
「森くん、変わらないように見えて雰囲気変わったよね。綺麗になったって言われちゃった」
お世辞とわかっていても嬉しくて、つい静にも話すと、その目はいっそう不満そうだ。
「ふーん。森の目って意外と節穴だね」
「どういう意味!」
節穴って!別に綺麗になんてなってない、とでも言いたいわけ?
失礼なその言い方にムッとすると、静は掴んだままの腕をぐいっと引っ張り、私の体を抱き寄せる。
「入江は高校の頃からかわいいし、綺麗だったよ」
かわいいし、綺麗だった……。
不意打ちに言われたことに、頬が一気に熱くなる。
その言葉を口にする彼の胸に耳を当てると、ドク、ドク、と心臓の音が聞こえた。