クールな弁護士の一途な熱情
「いって!」
痛がり声を上げる彼に、見るとそれは静の手だった。
「人の連れになにしてんの?」
笑顔のまま、腕をひねる手に力をこめる彼に、男性は「す、すみません!」と半泣きになりながら逃げて行った。
その後ろ姿を見て、静は呆れたように笑う。
「ありがとう、助かった」
「どういたしまして」
少しよれた肩を直していると、白いTシャツにロールアップしたパンツ、黒いボディバッグを合わせた静は私の姿を上から下まで見た。
「で?なんで私服なの?」
「え?ダメ?」
「ダメっていうか……浴衣着てくるのかなって、ちょっと期待してたから」
そう言いながら、静は私の手を取り歩き出す。
手を包む長い指の感触が愛しくて、私も軽く握り返した。
期待してた、なんて。
そんなふうに言ってくれるのなら、着てくればよかったかな。なんて、単純な私は思ってしまう。
それからふたり、駅から海岸沿いまでの、出店が並ぶ通りを歩く。
「ここの花火大会、久しぶりに来た。それこそ、12年ぶりかも」
「俺も。入江と来てからずっと来てない」
「なんで?」
静はこっちに住んでいたんだし、来ようと思えば来れるだろう。
なのにどうして、と浮かんだ疑問を投げかけると、静は前を見たまま答えた。
「……花火大会の思い出、誰とも上書きしたくなかったから」
え……。
それは私との思い出を、ということ?
なんで、とたずねたいけれど、答えを聞くのが怖くて飲み込む。
静もそれ以上言葉を足すことはなく、繋ぐ手に力を込めた。