クールな弁護士の一途な熱情



『果穂……好きだよ。あの夏を忘れたことなんてなかった』



……静のあの言葉、嬉しかったな。



私も、あの夏を忘れたことなんてなかった。

誰と過ごしても、付き合っても。

夏の暑さを感じるたび、潮の香りを嗅ぐたび、打上げ花火を見るたび、胸にこみ上げたのはあの夏の恋と静の姿だった。



彼も同じように、私を思い出してくれていたのだとしたら。

そう思うと嬉しくて、にやけてしまいそうになる。



けど職場では顔に出てしまわないよう気をつけなくちゃ。平常心、平常心……。



緊張する心を落ち着けて電車を降り、深呼吸をしながら駅から事務所までの道のりを歩く。

そして、もはや慣れた足取りでビルに入り5階の事務所で降りた。



「おはようこざいまーす……」



事務室へ入ると、そこにはまだ誰もいない。

あれ、まだ誰も来てないのかな。



今日のスケジュールが書いてあるホワイトボードを見ると、静と壇さんの欄には『終日外出』の文字が書かれていた。

静、今日一日いないんだ。

どんな顔をしていいかわからなかったし、ちょっと安心してしまう。



明日からはお盆休みだ。静たちは出勤の日もあるけれど、私は13日から18日の日曜日まで一週間弱休みとなる。

時間が経てば多少はこの気持ちも落ち着きを取り戻す気もするし。

するとそこに、花村さんがドアを開け姿を現わした。



「あら、おはよう。果穂ちゃん」

「花村さん。おはようこざいます」



にこりと微笑む花村さんは、今日はストライプ柄の爽やかなワンピースだ。

ワンピースを着るといつも以上にスタイルの良さが目立つ。なんてうらやましい。


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