クールな弁護士の一途な熱情



「入江。帰るところ?」

「うん。静は?今日は戻らないのかと思ってた」



いたっていつも通りの彼に、私も平静を装い話す。



「その予定だったんだけど、急遽これから相談が入って」

「依頼人くるならお茶出ししようか?」

「ううん、大丈夫。定時過ぎてるし、このままあがっていいよ」



そっか、と頷いて、会話が途切れる。

けれどお互い、その場から去ることができず黙って向かい合ってしまった。



ちょっと、気まずい。

先日のキスのこと、言葉の意味を確認したい。けど、なんて聞いていいかもわからない……。



すると、静が先に口を開く。



「……あのさ、この前の」



そのひと言とともに静が沈黙を破った、その時だった。



「しーちゃん!」



突然響いた細い声に静とともにそちらを向くと、そこには茶色いロングヘアをふわふわとさせた女の子がいた。



淡いピンクのスカートがよく似合う、小柄でかわいらしい雰囲気の彼女は、静を見て微笑む。

その姿は、私の頭の中のいやな記憶を一気に引きずり出した。



「希美……なんで」

「もう、何度も電話してるのに出てくれないから。しーちゃんは事務所は来ちゃダメって言ってたけど、さすがに来ちゃったよ」



彼女はそう、チークの塗られた頬を膨らませながら静の右腕にぎゅっと抱きつく。


< 153 / 198 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop