クールな弁護士の一途な熱情
「入江。帰るところ?」
「うん。静は?今日は戻らないのかと思ってた」
いたっていつも通りの彼に、私も平静を装い話す。
「その予定だったんだけど、急遽これから相談が入って」
「依頼人くるならお茶出ししようか?」
「ううん、大丈夫。定時過ぎてるし、このままあがっていいよ」
そっか、と頷いて、会話が途切れる。
けれどお互い、その場から去ることができず黙って向かい合ってしまった。
ちょっと、気まずい。
先日のキスのこと、言葉の意味を確認したい。けど、なんて聞いていいかもわからない……。
すると、静が先に口を開く。
「……あのさ、この前の」
そのひと言とともに静が沈黙を破った、その時だった。
「しーちゃん!」
突然響いた細い声に静とともにそちらを向くと、そこには茶色いロングヘアをふわふわとさせた女の子がいた。
淡いピンクのスカートがよく似合う、小柄でかわいらしい雰囲気の彼女は、静を見て微笑む。
その姿は、私の頭の中のいやな記憶を一気に引きずり出した。
「希美……なんで」
「もう、何度も電話してるのに出てくれないから。しーちゃんは事務所は来ちゃダメって言ってたけど、さすがに来ちゃったよ」
彼女はそう、チークの塗られた頬を膨らませながら静の右腕にぎゅっと抱きつく。