クールな弁護士の一途な熱情
「待って!」
そのとき、響いた大きな声に足を止める。
駅に続く大通り沿いの道でゆっくりと振り向くと、そこに立っていたのは希美ちゃんだった。
ヒールを履いた足で、私を追いかけてきたのだろう。
少し息をあげながらも、その目はしっかりと私を見据える。
「……あなた、入江さんですよね?高校のとき、しーちゃんと付き合ってた。どうしてここに?」
投げかけられたその問いに、私も口を開いて答える。
「別に、ただ仕事でお世話になってるだけだよ」
「ふーん……それならいいけど」
そう頷くけれど、不服そうなその顔から気に入らないのであろうことは明らかだ。
険しい顔で見つめ合う私たちに、通りかかる人々は何事かと横目で見ていく。
その視線を感じながらも、希美ちゃんはいっそう目力を強めこちらをにらんだ。
「でも、ちょっとしーちゃんに優しくされたからってやり直せるなんて思わないでくださいね」
「なっ……」
「あなたがいない間、彼を支えてきたのは希美なんだから。今更あなたにできることなんてなにもない」
なんでそんなこと、今もあなたにいわれなくちゃいけないの。
そう思うのに、彼女の言葉はグサリと胸に刺さる。
それを察してか、希美ちゃんはあざ笑うようにふっと笑みを浮かべた。
「希美たちの間にあなたが入る余地がないなんてこと、あの頃から知ってますよね?だからあの頃と同じように、さっさとしーちゃんの前から消えて」
追い討ちをかけるようなその言葉は、苦い過去を思い出させ、それ以上会話をさせる気力を奪った。
話を終え事務所のある方へ戻って行く彼女の、華奢な後ろ姿を見ながら、私はその場に立ち尽くすしかできない。
……静と希美ちゃん、ふたりの間に入る余地なんてない。
そう。それは、あの頃も強く思い知ったこと。