クールな弁護士の一途な熱情
「ずっとあの子が支えてくれてたんでしょ?かわいくて静のことが大好きで、静も悪い気してないから未だにそばに置いてるんでしょ。じゃあ付き合っちゃえばいいじゃない」
そんなこと、思ってない。
だけど静が『そうだね』と笑ってくれたら、私も笑って流せそうな気がした。
けれど、その瞬間静は私の横にあった壁をドン!と叩いた。
突然のその音に驚き彼を見ると、その表情はあの日と同じ。悲しげに歪められている。
「……その言葉、入江からだけはもう聞きたくなかった」
溢れ出そうな感情を堪えるように、悲しい目をする静に、胸がズキッと痛む。
その時、背後から事務所のドアが開く音がした。
「ふぁ〜、たまに早起きしたら眠い……ってあれ、ふたりともなにしてるの?」
やってきた壇さんに、静は壁から手を離し所長室へ向かっていく。
私もなにもなかったふうを装い、壇さんに笑顔を向けた。
「壇さん。おはようございます」
強がりからかわいくない言葉を彼にぶつける私は、なにひとつ成長していない。
今も、傷つくことや劣等感から逃げているだけ。
花火の下で交わしたキスが、嬉しかった。
彼のことが愛しいと思った。
だけど、彼は?
過去の熱に踊らされているだけだとしたら。
熱が冷めたときにも、私を見てくれる?
彼のそばには、希美ちゃんがいるのに。
彼女以上に特別な存在にしてくれる?
……もう、やめよう。
彼への気持ちは思い出にしよう。
大丈夫、あの時と同じ。時間がどうにかしてくれる。
今ならまだ戻れる。
あの夏の恋を過去のものにしていた自分に。