クールな弁護士の一途な熱情
「これおいしい!」
「だろ?この美味さならこれくらい食えちゃうだろ」
思わず顔をほころばせる私に、森くんは自信満々に笑みを見せる。
「落ち込んだ時は美味い飯を腹いっぱい食うに限る。飲食店やってる俺が言うんだから間違いない」
言い切る森くんの言葉には、説得力がある。
たしかにそうかも。美味しいものを食べるだけで、心はあったかくなるもんね。
さすがカフェのオーナーだ。連れてきてくれたお店もこんなに美味しくて……。
彼の親切心に安心感を覚え、次第に、自分の中で堪えていたものがぷつんと切れた。
それと同時に、目からはポロポロと涙がこぼれだす。
突然泣き出すとは思わなかったのだろう。森くんは少し驚き、戸惑うとハンカチを差し出す。
こちらの様子を伺う店員の視線を感じながら、それを受け取り涙を拭った。
「ごめん、いきなり泣き出したりして……」
「いいよ。なにかあったのか?」
優しくたずねる声に、これ以上気持ちを隠すことができなくて、私はこれまでのことを話した。
静に再会してから、心惹かれたこと。
幼馴染が現れて牽制されたこと。
その彼女が、高校時代に別れた理由だったこと。
話すうちに涙がまた止まらなくなってしまう。
「伊勢崎の幼馴染、か……そういえば、やたらくっついてたのがいたな」
森くんの記憶にも希美ちゃんの姿はあったらしく、話を聞き終えてから思い出したように頷いた。
「思えば私、静のこと少ししか知らないんだ。過ごした時間もあの子と比べると短くて、特別になんてなれそうにない」
「時間なんて関係ないと思うけど」
「……それでも怖いの。あの子のほうが特別で、静の近くにいるってまた思い知るのが」
雨の中、彼を待ち続けた日曜日。
期待に膨らんでいた気持ちは、不安に変わり、徐々に失望になりしぼんだ。
あの頃と同じ悲しみはもう味わいたくない。