クールな弁護士の一途な熱情
「またそのうち、今度は女同士でご飯行きましょうね。辞めたからって縁が切れちゃもったいないもの」
「はい……ありがとうございます」
花村さんの言葉に笑って頷くと、ふたりも笑う。
短い期間にもかかわらず、こうして仲間として受け入れてくれる。そんなふたりの優しさに、心が温かくなった。
すると、壇さんは思い出したように辺りを見回す。
「あれ、そういえば伊勢崎くんは戻ってないの?忙しくても今日だけは18時までに戻って果穂のこと見送るように言ったのに」
『伊勢崎くん』、その名前に彼の姿が浮かび、胸の奥がチクリと痛む。
けれどそれを隠すように笑った。
「いいですよ。忙しいでしょうし、またいつでも連絡も取れますし」
……嘘。
連絡先の交換もしていないし、連絡なんてとれない。とるつもりもない。
だけど本音は飲み込んで、改めてふたりに頭を下げる。
「本当にお世話になりました。ありがとうございました」
そしてバッグと花束を手に事務所を出た。
ここを去ればもう、静との接点もなくなる。
もう縁も切れて、完全な過去になる。
これで、いいんだ。
エレベーターで1階に降り、エントランスを足早に抜けようとした。
ところがそんな私の行く手を阻むように、目の前には静が立っていた。
「静……」
どうして……ここに。
まさかここで待っているとは思わず驚きを隠せずにいると、静は真剣な表情でこちらを見た。