クールな弁護士の一途な熱情
「だけど諦めない希美に、半ば諦めてなあなあに甘やかしてたところもあったのも、事実」
「……うん」
「けど、誓ってなにもしてないから!どんなに言い寄られても抱きしめたりすらもしてないから!手出ししてなければいいって思ってるわけじゃないけど、でも入江には誤解されたくない」
そう慌てて首を横に振るところが、なんだか彼らしくて、私はまた「うん」と小さく頷いた。
「希美にはあれから、ちゃんと話して納得してもらったから」
「……本当に?」
「本当。まだ納得してもらえないなら何度でも伝える。入江にも信じて貰えないなら、信じて貰えるまでなんでもする。それくらいしないと、俺はあの夏のまま動けない」
『何度でも』、『なんでも』、そう言葉にする彼の目は真剣なものだった。
「高校の頃、告白する一年近く前からずっと好きだった。入江の笑顔も、バスケしてる姿も眩しかった」
「そんなに、前から?」
「うん。なのに、いざ付き合ったら緊張して上手く話せないし、キスだっていっぱいいっぱいで情けなかった」
付き合ってからのぎこちなさ、無言の時間。
それらは彼の精いっぱいなのだと、12年後の今ようやく知る。
「あの日、デートの日は希美に『熱がある』『体調悪い、心細い』って泣かれて……そんな時に限って携帯の調子も悪くなって電源入らなくなるし」
静は悔しそうに顔を歪ませて、こちらへ右手手を伸ばすと、私の頬をそっと撫でる。
「けどなにを言っても言い訳にしかならないこともわかってたから。入江に振られた時も、こんな自分なら当然かって諦めもあった」
「そんな……」
「けど、それでも忘れられなかったんだ。何年たっても夏になると入江を思い出す。それは誰かと付き合っても同じで、その度自然と心が離れていった」