クールな弁護士の一途な熱情
「さすが入江さん。だが仕事に熱心なのはいいが、そればっかりでもなぁ。そろそろ結婚相手も見つけておかないと行き遅れるぞー?」
ところが、感心に続いて発せられたのは結婚を心配するひと言。
今時セクハラにもなりかねない発言だけれど、嫌味のないその言い方から悪意はないのだろうと察して私は笑って流そうとした。
けれど後輩社員は、すかさず答える。
「あれ、部長知らないんですか?入江さん、彼氏いますよ。しかも弁護士の」
弁護士、を強調して言う彼女に、部長は「えぇ!?」と驚きの声をあげた。
静とのことは自分から周りには言っていない。
けれど、上原さんが自分との噂の火消しに『入江には弁護士の彼氏がいる』と言いふらしたらしく、一部の社員にはすっかり話が回ってしまっているのだった。
別に間違いでもないしいいんだけどさ……。
苦笑いをする私に、部長は驚きながらも少し安堵した様子を見せる。
「それなら安心だなぁ。いやー、周りの部署からも入江さんはまだ結婚しないのかよく聞かれるから、心配してたんだ」
「あ、あはは……お気遣いありがとうございます」
私はぎこちない笑顔のまま、そこから逃げるように廊下へと出た。
『結婚』、か……。
そりゃあ、年齢的に意識もする。
けど付き合ってからはまだ2ヶ月だ。その話をするのはまだ早い気がして、お互い一切話題には出さない。
高校時代に付き合っていたとはいえ、12年間離れていたこともあるし。
焦らせてプレッシャーをかけてしまうのもいやだ。
さらに言うと上原さんの件が少しトラウマで結婚するかも、なんて期待を抱くのがちょっと怖い。
そう考えながら廊下を歩いていると、ポケットの中のスマートフォンが震えた。
見ると、そこには静からのメッセージが一件表示されている。