クールな弁護士の一途な熱情



『今日俺都内にいるから、仕事終わる頃迎えに行くね』



それは、金曜の夜は決まって一緒に過ごしている静からの連絡だ。



わざわざ迎えに、なんて……会社の人に見られたらまた冷やかされてしまいそう。

だけど、そういう静の優しさはやっぱり嬉しい。



しあわせな気持ちから仕事を再開させると、あれこれと業務をこなし、今日は定時であがった。

会社のあるビルを出ると、すぐ近くの通り沿いに黒い車が停められているのが目に入る。

その車の中をのぞくと、運転席には予想通り静の姿があった。



こちらを見た静と目が合うと、その目はそっと微笑む。



「お待たせ」

「果穂、お疲れ様」



『入江』から『果穂』に変わった呼び名が、最近ようやくしっくりくるようになってきた。



助手席のドアを開けシートに座ると、シートベルトをつける。

静はそれを確認すると、ゆっくりとアクセルを踏んだ。



「今日は残業なかったの?」

「うん。もうすぐ年末だし、仕事もようやくひと段落ってところ」

「そっか。ならよかった」



横浜と新宿。そんなに遠く離れた距離ではないけれど、お互い仕事が忙しく平日は会えない。

だから金曜の夜や土日は、できるだけ一緒に過ごす時間を作ろうと私たちは約束している。



「ごはんどうする?今日は特に予約もしてないけど、なにか食べたいものある?」

「うーん、じゃあ途中で食材買って静の家で作って食べよ。そのほうがお互いゆっくりできるし」

「やった。果穂の手料理だ」



些細なことにも嬉しそうに笑う静に、つられてこちらも笑顔になる。



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