クールな弁護士の一途な熱情
「もしかして、またなにか言われた?」
「えっ、ううん。ないない。むしろ少し話して希美ちゃんへの印象が変わったかも。……長い年月、本当に静のことが好きだったんだなって伝わってきた」
思い出すのは、希美ちゃんの涙。
それと同時にこの胸にこみ上げた、静への思いを勇気を出して口にする。
「でも、私も譲りたくない。過去のことは私には分かれなくても、未来のことは知っていけるように。静とのこれからを大切にしたいって、思った」
『これから』を期待するのは怖い。
もしかしたら、いつか、と不安は不意に寄せる。
けど、その弱さに負けたくない。
この先も、静と一緒にいたいから。
その思いを笑って言った私に、静はつないでいた手を持ち上げて、私の手の甲に小さくキスをした。
「……正直、果穂と会えなかった12年の間に、希美に逃げてしまおうかと思ったこともある」
「そうなの?」
「いつまでも果穂を引きずっていても仕方がないし、自分を好いてくれてる人に逃げればラクになるんじゃないかなって」
それは、以前私が抱いた『逃げ道』の選択肢と同じもの。
叶わないなら、違う道を選んでラクになりたい。
そう思う時が、彼にもあったんだ。
「でも、そう思うたびに果穂の顔が浮かぶんだ。夏の暑さを感じるたび、打上げ花火の音を聞くたび、果穂の姿が浮かんで心を占めた」
逃げようとするほど、その存在が大きくなって胸の中を占めてしまう。
自分と似た気持ちを静も似た形で抱いていてくれた。
それが、私たちをいっそうひとつにしてくれる気がした。