クールな弁護士の一途な熱情
「花村さん。こちら、明日から事務員として働く入江さん」
って、ちょっと!勝手に話進めないでよ!
「あら、やっと決まったんですね。でもどうしてずぶ濡れ……あ、このお洋服はもしかして彼女に?」
「まぁいろいろあってさ。どこか着替えられるような部屋に案内してあげて」
静の指示に、花村さんというらしいその女性は頷くと、私を連れて部屋を出てすぐ前の個室へ入った。
ここはきっと依頼人との相談室なのだろう。
横長いテーブルに椅子が4つ並んだその部屋は、大きな窓から外が見え開放感がある。
さらには通路側もガラス張りになっていて、弁護士事務所というイメージについてくる堅苦しさを取り払うかのような作りをしていた。
思わず室内をキョロキョロと見回していると、花村さんは手にしていた紙袋を私へ手渡す。
「私の趣味で選んだもので申し訳ないけど、これ着てね」
「すみません、わざわざ服用意していただいて」
「いいえ、いいのよ。でも先生からいきなり『女性物のMサイズの服適当に用意してくれ』なんて電話があったから、何事かと思っちゃった」
ふふ、と笑う花村さんに、先ほど車で静が電話をしていたことを思い出した。
あの電話は花村さんへかけていたものだったんだ。
あのまま家に届けて、『悪かった』のひと言でほっぽりだすこともできたのに。
わざわざ服を用意させたりして……そういう律儀なところ昔から変わらない。
すると花村さんは、窓際と通路側のブラインドをサッと下ろしながら問う。
「それで、本当に明日からバイト来てくれるの?」
「え?」
「さっきの話、先生が強引に進めてたみたいだから。私たちからすると人手が増えるのはありがたいけど、あなたはそれで大丈夫?」
私がまだ同意していないことはお見通しだったのだろう。
笑顔のままたずねられ、答えに詰まる。
そんな私に花村さんは無理に答えを迫ることなく、「廊下に出てるね」と部屋を出た。