クールな弁護士の一途な熱情
それから12年が経ち、高校卒業以来久しぶりに彼と再会した日の翌朝。
私はひとりドタバタと足音を立てながら自宅を駆け回っていた。
「ね、寝坊したー!!」
ここ1ヶ月ほど毎日だらけた生活を送っていたせいか、6時半にセットしたアラームはすっかり聞こえず寝過ごしてしまった。
顔を洗って寝癖を直して、服を着替えて、急いでメイクをして……急ぎながらもしっかりと赤い口紅を引いて玄関へ向かう。
「果穂、おはよう……って、そんなに急いでどこか出かけるの?」
ちょうどそこに、玄関のすぐ横にあるリビングからお母さんが顔をのぞかせた。
その問いに私は黒いヒールを履きながら答える。
「今日からバイトすることになったの」
「バイト?あらそう、やっと働く気になったのね〜。よかったよかった。で?どこで働くの」
どこで……と聞かれると、少し迷ってからおずおずと答える。
「……べ、弁護士事務所」
「はぁ!?なんで弁護士事務所!?」
お母さんからの反応は想像通り。
決して賢いとはいえない娘から『弁護士事務所』なんて言葉が出てくるとは思わなかったのだろう。
お母さんは驚きのあまり、思わずリビングから飛び出してくる。
「私にもよくわからないの!とにかく行ってきます!」
そう、私自身もなぜこんなことになったかわからない。
学生時代の元カレと12年ぶりに再会して、その人が弁護士になっていて、バイトとして雇われることになって……。
流された感じもあるけれど、まぁ、ちょっとでも気分転換になるならそれもいいかなと思えたりもした。
急ぎ足で自宅を出て、最寄駅から電車に乗りオフィス街のある関内駅で降りる。
夏の日差しが厳しい中、官庁などがある閑静な通りを小走りで抜けて、徒歩10分弱行った先に昨日と同じビルがあった。