クールな弁護士の一途な熱情
『ねぇ、静。なんで海?』
『海ってテンション上がらない?せっかくだしちょっと遊ぼうよ』
『そんな、子供じゃあるまいし……』
そう言いかけた私の顔に、静は海水をバシャッとかけた。
『ちょっとなにすんの!濡れた!』
『濡らしたからねぇ。悔しかったらかかっておいで』
その挑発にまんまと乗った私は、静に海水をかけ反撃した。
それから互いに水を掛け合い、気づけば靴も脱がず、お互い全身びしょ濡れになるまではしゃいだ。
セーターベストが水を吸って重いし、靴の中も濡れて気持ち悪い。
だけど思い切り笑って、いつの間にか心にあった沈む気持ちはどこかへいってしまったようだった。
それまで、ふたりきりだとうまく会話ができなかった。
ぎこちない気持ちは静にもあったのだろう。
だけど私を励ますために、あえて静はいつも通りでいてくれた。
海にまで連れ出して、笑わせてくれた。
そういうところがまた、好きだって強く思った。
帰り道、夕日に向かってペダルを漕ぐ彼の濡れた背中が愛しかった。