クールな弁護士の一途な熱情
上原さんに対して、まだ好きとかやり直したいとか、そういう気持ちは一切ない。
浮気を知ってから、恋心なんてみるみるうちに冷めていったし。
だけど、なんであの子なんだろうとか、私のどこがダメだったんだろうとか。
ひとつひとつの疑問が、心をグラグラと揺さぶって不安定にする。
彼を問い詰めることもせず、すがることもしなかった。
そうしてあっけなく終わった恋を、うまく消化できずにいるんだ。
胸の奥にトゲが刺さるような痛みを感じながら、私は今日も赤い口紅をそっと引いた。
自宅を出て事務所へ行くと、そこにはすでに花村さんと壇さんのふたりが出社していた。
ふたりに挨拶をして自分のデスクに着くと、花村さんは申し訳なさそうな顔でこちらを見た。
「昨日はごめんなさいね。果穂ちゃんの歓迎会だったのに……都子も行けなくて、結局伊勢崎先生とふたりだったんですって?」
「はい。ごちそうしてもらっちゃいました」
笑って答えると、一方で壇さんは不満げに口をとがらせる。
「いいなー、私なんて深夜まで話し合いに付き合ってたっていうのに。伊勢崎くんは嫌がらせのように焼き鳥の写真送ってくるし」
あれから深夜まで……弁護士って大変だ。
お疲れ様でした、と苦笑いがこぼれてしまう。
ていうか静、本当に壇さんに写真送ったんだ。
壇さんは憎ったらしいというように舌打ちをしてから、ふと思い出したように「あっそうだ」とバッグをあさる。