クールな弁護士の一途な熱情
「ほら、見て見て。アンセムのグロス!」
そう言いながら彼女が見せたのは、真っ赤なグロス。
黒いキャップに筆記体で『anthem』と書かれたそれは、うちのメーカーの定番商品だ。
「昨日果穂の話聞いて、そういえば私もアンセムのグロス持ってた気がするなーって思い出して久々に使ってみたの」
壇さんの唇には、はっきりとした赤色のグロスがほのかにラメを含みながら艶めく。
その色は大人の女性といった壇さんの雰囲気によく似合っている。
「いいですね、その色。壇さんに似合ってます」
「えぇ、都子綺麗だからはっきりした色が似合うわよね」
お世辞抜きでふたりで褒めると、壇さんは嬉しそうに笑った。
コロコロと変わる表情が、ちょっとかわいらしい。
するとその目は、私の唇へ向けられる。
「けど思えば果穂もいつも口紅赤だよね」
「確かにそうね。なにかこだわりでもあるの?」
「あー……こだわりというか、なんというか」
ふたりの疑問に、まさか『元カレの好みで』なんて言えるはずもなく、どうしたものかと言葉を濁す。
するとちょうどそこに、事務室のドアがガチャリと開けられた。
顔を見せたのは静で、今日もきっちりとネクタイを締めた彼は話し込む私たちに目を向けた。