クールな弁護士の一途な熱情



「大丈夫?落ち着いた?」

「……うん、ありがと」



ふう、と息を吐いて、滲んだ汗をハンカチで拭う。



「過呼吸起こすってよっぽど怖かったよね、巻き込んで本当にごめん」

「……ううん、そうじゃなくて」



責任を感じているのだろう。申し訳なさそうに言う静に小さく首を横に振る。



違う、静のせいじゃない。

私が勝手に上原さんと女性を重ねて、ショックを受けただけ。

だけど、それを上手く説明する言葉も出てこない。



「……ちょっと、驚いただけ」



そのひと言で隠して、他は全て飲み込んだ。



いつからこんなに、弱くなったんだろう。

着信ひとつに指先が震える。

思い出すだけで息が苦しくなる。

彼の存在が、自分のなかで大きな闇になっていく。



その闇に心を覆われてしまわないよう、ハンカチをぐっと握る。

そんな私に、静はなにかを察したようにそれ以上深く問い詰めることはなかった。

むしろその話題を終わらせるように、優しく頭をぽんぽんと撫でる。



「入江、ちょっと気分転換しようか」

「え?」



気分転換……?

静はそう言うと、荷物をまとめ車のキーを手にして私を連れて事務所を出る。



「よし、今日はこれで仕事おしまい」

「まだ仕事中なのに、いいの?」

「今日だけ特別。予定もないし、電話があれば俺の携帯につながるし。たまにはいいでしょ」



いたずらっぽく笑って建物を出ると、そのまま近くの駐車場へ向かう。

そして黒い乗用車に足を止めると、助手席のドアを開けて私に乗るよう促した。


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