クールな弁護士の一途な熱情
「車でどこ行くの?」
「内緒。ついてからのお楽しみ」
運転席に乗り、静は慣れた様子で車を走らせ出す。
そして丁寧な運転で街を抜けて、走ること10分弱。
「はい、到着」
静が車を止めた先は、海岸沿いの駐車場。
車から降り辺りを見渡すと、そこには一面海が広がっていた。
果てしなく続く壮大な海に、視界が一気に開けた気がした。
少しぬるい潮風を肌で感じながら見渡す景色の中、夕方ということもあり人はほとんどいない。
「ここ……もしかして」
「うん。高校の頃一緒に来たところ。懐かしいでしょ」
12年前、静が自転車を漕いで連れて来てくれた海。
あの日のことは、今でもしっかりとこの胸に残っている。
それを静も覚えてくれていたことが、嬉しい。
波の音に呼ばれるように砂浜に降りると、ヒールを履いた足元は柔らかな砂に埋まる。
転んでしまわないように慎重に一歩ずつ歩くと、隣を歩く静がそっと手を差し出した。
「転びそうで危なっかしい」
「……悪かったわね」
「悪くないよ。俺が勝手に心配してるだけ」
柔らかな言い方をする静に、それ以上なにも言えなくなってしまって、私は恐る恐るその手をとる。
ぎゅっと握った彼の手は大きく、この手を簡単に包んでしまった。
変わらない海辺の景色と、潮の香り。あの日も見たオレンジ色の夕日。
だけど、自転車は車になって、制服はスーツになって。
私たちだけが変わっていく。