クールな弁護士の一途な熱情
「学校から結構距離あったのに、よく自転車で、しかも私も乗せて来ようと思ったね」
「若かったからなぁ。今じゃもうできないかも」
30歳という年齢を感じながらしみじみと言う静に、思わず「あはは」と笑ってしまった。
不思議。さっきまであんなに苦しかったのに。
今はこんなにも呼吸がラクだ。
静といると安心して、心が穏やかになれる。
……あの頃とは違う私たちだから。今なら素直に言える気がした。
握っている手にきゅっと力を込めてつぶやく。
「……ありがとね。あの日も今も、私のために連れてきてくれたんだよね」
あの日は落ち込んでいた私を励ますために、今日は苦しむ私の気持ちを入れ替えるために。
静は、考えて動いてくれた。
きっとみんなに同じように与えている優しさを、私にもひとつ与えてくれているだけ。
そうわかっていても、嬉しいよ。
その気持ちを込めるように微笑んだ私に、静は足を止めてこちらを見た。
「別に、あの日も今も、入江のためにとかそんな大それた理由じゃないよ」
「じゃあ?」
「入江の笑顔が好きだから、笑ってほしかっただけ。入江の笑顔が見たい、俺のためにしてるだけ」
私のためにじゃなく、自分のために。
そんな言い方をしているけれど、それでもやっぱり嬉しい。
私の笑顔が好き、と笑ってくれる。
そんな真っ直ぐなまなざしに、いとしさがよみがえる。
「変なの」
「変かなぁ」
ついくすくすと笑ってしまう私に、静も照れ臭そうに笑う。
そんなふうにふたり笑いあっていると、寄せた波がふたりの足をじゃぶ、と濡らす。