クールな弁護士の一途な熱情
「……あ。波打ち際よりすぎちゃったね」
海との距離を考えず立ち止まってしまった、と濡れたパンプスを見る私に、静は革靴を脱ぎ始める。
「ね、せっかくだし海入らない?」
「えっ、でも砂だらけになるし、車のシート汚しちゃう」
「そんなの、あとで洗えばいいよ」
静はそう子供のように笑って裸足になり、スラックスの裾をまくる。
そんな彼に巻かれるように、私もパンプスを脱ぎ裸足になると静とともに海へ入っていく。
今度はどちらからともなく手をつないで、ちゃぷ、と水の中を歩いた。
あの頃は手ひとつつなぐこともなかなかできなくて、結局一度しかつなぐことはなかった。
なのに今では、こんなにも簡単にできてしまうのが、ちょっと不思議だ。
ゆっくり一歩ずつ波打ち際を歩くと、寄せた波がふたりの足を濡らしては引いていく。
それを目で追いながら、静は懐かしむように言った。
「ふたりで海に来たあの日、帰る頃にはふたりとも全身びしょ濡れになってたよね」
「うん。家帰ったらお母さんに超叱られた」
「あはは、うちも」
あの日のことを思い出しながら、ふたりで笑う。
その時、ゆるんだ地面に足を取られ、私はついよろけてしまった。
「わっ」
「おっと」
静はそんな私の体を、軽く抱きしめるように胸で受け止める。
「ご、ごめん」
硬い胸は私がぶつかってもよろけることはなく、しっかりと受け止めてくれる。
その力強さにこの心はドキッと音を立て、私は慌てて顔を上げた。
見上げると、頭ひとつ近く上にある静の顔。
彼の茶色い瞳に、頬を染める私の顔が映り込む。