クールな弁護士の一途な熱情
「……口紅、色落ちてる」
「え?あ!」
まじまじと顔を見て言った静に、そういえば今日、ごはんのあと口紅を塗り直してないことに気がついた。
上原さんのことを思い出すのが嫌で、口紅を見ることすら嫌だったから……。
隠すように私は顔を下へ向ける。
「恥ずかしい、あとで塗り直すから見ないで」
「やだ」
「やだって、そんな子供みたいな……」
すると静は、ポケットからなにかを取り出したかと思うと、突然私の顎に手を添え顔を持ち上げる。
そしてそれをそっと私の唇に塗ってみせた。
「うん、やっぱり似合う」
満足げに笑う静の手元を見ると、それは真新しい口紅。
コーラルオレンジの色にほのかにラメが含まれていて綺麗なそれは、ゴールドのケースに『anthem』と書かれた、うちの会社の商品だった。
「なんで、これ……」
「今朝壇さんから聞いたんだけど、入江ここのメーカーで働いてるんだって?」
今朝……あぁ、あの話の流れで壇さんに聞いたのだろう。
「それで、お昼ごはん食べに外出た時に近くの百貨店で見て、入江にはこの色が合うんじゃないかなって買ってきた」
私のために……?
化粧品コーナーなんて、静自身は当然用などないだろう。
だけど、私のために見て、選んで買ってきてくれた。その思いに胸があたたかくなる。