クールな弁護士の一途な熱情
家を出て、事務所のあるビルへ出社してきた私はエレベーターに乗り5階を目指す。
昨日は、楽しかったな。
あれから私と静は、日が沈むまで海辺を散歩した。
なんてことない他愛もないような話をしたり、時折黙って歩いて。だけどずっと手はつないだまま。
帰りの車の中でも、家に帰ってからも、静の手の感触が指に絡みついて消えなかった。
でも、貰った口紅を早速つけてきたとか思われたらちょっと恥ずかしいな……。
そう思いながら5階についたエレベーターを降り、事務所へ入っていく。
「おはようございます」
事務室に入ると、そこにはすでに花村さんと静の姿があった。
仕事の話をしていたのだろう、書類を見ながら立っていたふたりはこちらへ目を向ける。
「おはよう、果穂ちゃん」
すると花村さんは、その目を私の顔にとめた。
「あら、果穂ちゃんなんか印象が……あ、口紅の色変えた?」
「はい、実は」
「いいわね。そっちのほうが柔らかい印象でよく似合ってる」
いつもの赤い口紅がよほど印象的だったのだろうか。花村さんは色の変化にすぐ気がつくと、自然に褒めてくれた。
『似合ってる』、その言葉が嬉しくもくすぐったくて、照れてしまう。
そんな私と花村さんのやりとりを見て、静はどこか嬉しそうに小さく笑って口を開いた。