クールな弁護士の一途な熱情
「なんだよそれ。お前は会社休んで逃げてるから気にならないだろうけどな、俺はお前と変な噂立てられて迷惑してるんだよ」
「逃げてるって……」
「中途半端に休職なんてするから周りが憶測で話するんだよ。すっぱり辞めるか、戻って普通の顔するかはっきりしてくれよ!」
彼の中で積もり積もったものがあったのか、感情的になって大声で責め立てる。
こんな彼、付き合っている間も見たことがない。
その声に道を行く人々が何事かと視線を向けた。
……なに、それ。
変な噂って、元々は浮気してた自分のせいじゃない。
それをまるで私のせいのように言って、『逃げてる』とか『はっきりしてくれ』なんて、どの口で言ってるのよ。
そう、言ってやりたいことはたくさんあるのに、声にならない。
怒りがふつふつと込み上げる反面、肩に触れる手に気持ち悪さを覚える。
やっぱりこの人も、昨日の女性と同じ。
裏切って傷つけて、なのに全て相手のせいにするんだ。
私が悪いと、責めるんだ。
あぁまた、息が詰まる。
呼吸が、また上手くできなくなっていく。
苦しさを堪えるようにブラウスの胸元をぐっと握った、その瞬間。
「彼女になにか用ですか?」
響いた声に、上原さんとともに視線を向けると、そこにはちょうど会社から出てきた静が立っていた。
静は上原さんが私の肩を掴んでいるのを見ると、彼の腕を掴み離させ、私と上原さんの間に立つ。
「なっ、なんだよお前」
「私こういう者です。どうぞよろしく」
静がそう言って渡した名刺には、『伊勢崎静』の名前の横に『弁護士』の文字が書いてある。
それを目にして、上原さんは血の気が引いたのだろう。
サーっと顔を青くして、一瞬で冷静になった。