クールな弁護士の一途な熱情
「いや、あの、僕は入江さんの会社の上司で……今後のことについて、話をしたくて」
「そうだったんですか。ですが彼女、今日はちょっと体調が優れないようですので。また後日ゆっくりと時間を設けてはいかがでしょう」
しどろもどろになる上原さんに、静はにこりと笑って言う。
けれどその目は笑っておらず、『いかがでしょう』と言いながらも、有無を言わさぬ圧を感じさせた。
それに対し上原さんはひきつった顔で「そ、そうですね」と頷く。
「……じゃあ果穂、今度はゆっくり話そう。時間できたら連絡くれよ、待ってるから」
そしてそれだけを言うと、足早に駅の方へ向かって行った。
遠くなる背中に、堪えていた汗がぶわっと噴き出す。
強張っていた全身から一気に力が抜けて、つい静の背中に寄りかかるように額をつけた。
「……入江、大丈夫?」
「うん……ごめん、ありがと」
静はゆっくりこちらを振り向くと、私の額ににじむ汗を指でそっと拭う。
「次の取引先向かうまでちょっと時間あるし、少し散歩していこうか」
「散歩?」
「うん。近くに公園あるから、涼んで行こ」
そして私の手を握ると、導くように歩き出した。
……大きな手が、安心する。
さっき触れた上原さんの手には嫌悪感しか感じられなかったのに。
静の手には、安らぎを感じてる。