クールな弁護士の一途な熱情



「観念して、吐き出しちゃいな」



こんな時までそうやって、冗談めかすように笑って言ってくれる。

そんな静にだから心をひらけて、また甘えてしまう。

弱くて情けないところも、勇気を出して見せられる。



小さな風に頭上の木々が揺れる。その音を聞きながら、口を開いた。



「……彼とは、2年くらい付き合ってたの」



最初は、毎日一緒にオフィスで働く上司であり仲間の中のひとりだった。

仕事自体にやり甲斐を覚える中で、彼に評価してもらえたり、ときには叱られたり、そんな日々も楽しかった。



彼にもっと認められたい。

いつしかその気持ちは恋になって、彼好みの人になりたくて、メイクも服装も寄せていった。



そんなある日の飲み会の帰り道、勇気を出して伝えた気持ちに彼は頷いてくれた。



彼と恋人同士になっても、関係は公にはできなかった。

だけど互いに同じ気持ちを抱いてる、それだけで幸せで、充分だった。



「私なりに彼のことを想ってるつもりだったんだけど、彼はそうじゃなかったみたい」



ずっとこのまま幸せな日々が続いて、当たり前に結婚して家庭を築くものだと思っていた。

……だけど、彼の中ではそうじゃなかった。



「彼さ、結婚するんだって」



ぼそ、とつぶやいた言葉に静は缶を片手に首をかしげる。



「結婚?って誰と?」

「うちの会社の若い子。子供ができたんだってさ。みんなにお祝いされて、幸せそうだったなぁ」



その言葉とともに、はは、と乾いた笑みがこぼれた。



今でもあの日のことを、鮮明に思い出す。

みんなに囲まれ『おめでとう』と祝福される彼。

その隣にいるのは自分だと思っていたのに。

現実は、まったく違う人。



うそだ。

こんなの夢だ。悪い夢。

早く目を覚まさなきゃ。



呆然とした頭は、そうやって、現実と向き合えずにいた。


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