クールな弁護士の一途な熱情



「私ひとりで浮かれててなにも知らなかったから信じられなくて。でも彼から直接『果穂のこと選べない』って言われて、ようやく知ったんだ」



結婚発表の日の夜。

ふたりで話をしたのは、いつもの人目を忍んで会った小会議室の端。


だけど当然その日はキスもなく、触れることすらもなく、互いの空気は重いものだった。



『……ずっと浮気してたの?』

『なりゆきで始まってさ……半年くらい前から、かな』



半年間も気づかなかった自分にいっそうショックを受けていると、彼は苦笑いで言った。



『悪かった。けど果穂だって仕事続けたいって言ってたし、結婚とか考えてなかっただろ?』

『は……?』

『あの子は結婚とかも考えて、将来の話とかもしてくれてさ。そういうところが、あの子とお前じゃ違うなって』



それは遠回しに、『お前も悪いんだ』と言っていた。



確かに仕事は好きだし続けたい。でも結婚したくないなんて言ったことない。

将来の話とか結婚とか、私の年齢で話題に出したら重いかな、それがきっかけで嫌われたくないな。そう思って避けていただけ。



浮気してたくせに悪いのは私なの?とか、最低、とか。言いたいことは沢山あったのに。



『……ごめん。俺、果穂のこと選べない』



彼からのそのひと言に、全身から力が抜けて、すがることも責めることもできずに終わってしまった。



それからの日々は抜け殻のようで、泣くことも取り乱すこともなかった。


だけど会社に行けば普通の顔をする彼がいて、息苦しくて気持ち悪くて、度々トイレで吐いた。

家に帰っても、そこは時折ふたりで過ごした部屋。幸せだった日々を思い出して、苦しくて眠れなくなった。



「情けないことに、それ以来眠れないし気持ち悪いしで仕事に身が入らなくなって。大きなミスも連発して……そのうち社内で、私と彼との噂が流れ始めた」


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