クールな弁護士の一途な熱情
「彼に退職を勧められて、怒って断って。でも結局次の日に倒れちゃって、休職することになったの」
帰り道、駅で倒れ搬送された病院で言われたのは、ストレスからくる睡眠不足と胃潰瘍。
職場で思い当たることがあるなら、少し休みなさいと医師から診断書が出たこともあり、休職届を出すことにした。
だけど、休んだことでこれまで絶対譲れないと思っていたはずの気持ちが揺れた。
このまま仕事を続けていけるのかな、辞めた方がいいんじゃないのかな、だけどやっぱり続けたいとも思う。
気持ちは曖昧なまま、時間ばかりが過ぎていく。
それでもまだ、思い出すだけで息がつまる。
一度話が途切れ、ふたりきりのその場はしんと静まりかえる。
その中で、静が缶をベンチに置く音だけが小さく響いた。
「そこまでされて、本当のことを周りに言わなかったのはどうして?」
彼の疑問に、口から出た答えは
「……だって、彼女にも子供にも罪はないから。私ひとりが飲み込めば済む話」
偽善でも強がりでもない、本心だ。
周りに本当のことを言えば、きっと味方してくれる人もいただろうし、ひとり苦しむこともなかったかもしれない。
だけど、あんなにも幸せそうに笑う彼女はきっとなにも知らない。
同じオフィスで仕事をする中で人の恋人を取るような子じゃないこともわかっていたし、なにより、命を宿している身だ。
人生の中でも限られた大きな幸せを、壊したくない。
その気持ちも、私にとっても譲れないことだったから。
すると静は、私の頭をそっと撫でる。