クールな弁護士の一途な熱情
「けど、さすがに同じオフィスにいるのはお互いのためによくないだろ……」
「えぇ。だから、ひとつだけ頼みがあるんです。ブランド異動したいんです。だから、他のブランドにうまく異動できるよう上原さんから口添えしてもらえませんか」
それは、自分なりに精いっぱい考えて出した答えだ。
いくら吹っ切れたとはいえ、同じオフィスにいるのは互いに気分もよくない。
それなら違うブランドに異動して、心機一転頑張ろう。
ブランドが変わっても、やれる仕事は変わらないから。
私のその決意に、上原さんはそれまでの動揺した顔から一瞬で安堵した顔をする。
よほど私と距離を取りたいと思っていたのだろう。
彼にとって私はもう、彼の地位や評価を脅かす“恐れ”だったんだ。
そう実感すると、また胸はチクリと痛むけれど。
「わかった。じゃあ俺から他のブランドに移れるよう頼んでみる。といってもお前くらいのやつならどこも欲しがるよ」
はは、と笑った彼に、私も小さく微笑む。
「最後に、もうひとつ」
そしてそう言葉を付け足すと、思い切り腕を振り上げ、上原さんの頬を平手打ちした。
バチン!と響いた、手のひらが頬に当たる音に、通りすがる人々は驚いた顔でこちらを見る。
最も驚いているのは、頬を叩かれた張本人だ。
その間の抜けた顔に、私はいっそう強い目つきで彼を見る。