クールな弁護士の一途な熱情
「こんなもので、私の痛みが完全に消えると思わないで」
頬にあたった手がじんじんと痛い。みるみるうちに赤くなるその頬も痛いだろう。
けれどこの痛みは、そのうち消える。
私の手からも、彼の頬からも。
だけど、だからといってこの胸に負った傷は消えることはない。
「私が今回のことを黙ってるのは、上原さんのためじゃないですから」
「え……?」
「会社での私の立場と、なにも知らない彼女と、生まれてくる罪のない子供のため。あなたに対しての未練は、一切ありませんから」
あることないことを噂されて、仕事しづらくなるのはいや。
幸せでいっぱいの彼女を傷つけることも、そのせいで子供の存在が疎まれることも望んでいない。
だから私は、言葉を飲み込む。
だけどやっぱり、ひとりで抱えるには大きすぎて苦しすぎて。心が折れた自分を情けなくも思った。
そんな私を全て包んでくれた、彼がいたから。
静が、涙ごと抱きしめてくれたから。
今、こうして向き合えてる。
ほんの少し、強くなれてる。
こんなふうに私から言われるとは思っていなかったのだろう。唖然とした彼に、私は言いたいことを言い終えスッキリする。
「じゃあ、私行きますから。異動先が決まったら連絡お願いします」
そしてそれだけを言うと、上原さんをその場に置き去りにスタスタと歩き出した。