トモダチ地獄~狂気の仲良しごっこ~
「みんなもう知っているかもしれないけど、梅嶋さんが病院に搬送されました。まだ詳しいことは私たちにも伝わっていません。それなのでこの件は口外などしないように。学校外のマスコミの人に声をかけられても答えたりしないようにしてください」

朝のHR時、担任は「口外するな」と生徒たちに念押しした。

生徒が見知らぬ男とホテルの一室にいたというだけで大事なのに、さらに揃って浴室の中に倒れていたとなったら話は別だ。

担任もエレナのことを散々警察に聞かれたのか顔色は悪く疲れ切っている。

「……?」

そのとき、ポケットの中のスマホが震えた。

こっそりとポケットからスマホを取り出し画面を取り出してタップする。

【今朝、ニュースでやっていた事件彩乃と同じ学校の子だって本当?】

母からのメッセージに背筋が凍る。

【ご近所の方が噂していたんだけど、違うわよね?】

【もしそうだとしても今度の大会に影響はないのよね?】

【次の大会、Vリーグのスカウトマンが選手を観に来る予定らしいの】

返事を返す前に次から次に送られてくるメッセージ。

母の興奮がうかがえる。

【その人、お父さんの古くからの知り合いなのよ。彩乃がレギュラーだって話をしたら、彩乃のこともきちんと観てくれるって約束してくれたの】

【お父さんとお母さんに恥をかかせないでよ】

【いつも以上に練習を頑張りなさい】

【このチャンスを逃したら、許さない】

ジリジリとした焦燥感が体の奥底から沸き上がってきて息が苦しくなる。

次の大会、あたしはレギュラーから外されている。

必死に頼んでも顧問はあたしをレギュラーから外すという選択をとった。

いくらVリーグの父の知り合いのスカウトマンが試合を観に来てもあたしは出場できないのだ。

追い詰められていく。今のあたしには何ができる……?

どうしよう。どうしたらいい……?どうしたら……。

担任が出て行くと、教室中が一斉にうるさくなった。

あちこちで飛ぶ話題はもちろんエレナのこと。

あたしの頭の中はエレナのこと以上にバレーのことでいっぱいだった。

「ねぇ、どうしよう彩乃……。エレナ……大丈夫かな……?」

「梨沙……」

あたしの席までやってきた梨沙が表情を固くする。

今にも泣きだしてしまいそうな梨沙に何故か無性に苛立った。

あたしは今、追い詰められている。

エレナの心配もしているけど、それ以上に今、自分のことが大事だった。

「SNSとかにエレナのことが色々書いてあって心配になっちゃって。パパ活とか……そんなでたらめなことがたくさん書いてあったの」

「デタラメ……?」

「そう。エレナがパパ活なんてしてるわけないのに……」

梨沙の言葉に唖然とする。
< 173 / 221 >

この作品をシェア

pagetop