トモダチ地獄~狂気の仲良しごっこ~
中学時代のクラスメイトの関係は最悪だった。

でも、高校受験に向けて近くの進学塾に入ってから少しの間は周りの子達とうまくやれていたように思う。

でも、少しするとあたしはなぜかまたしても周りから浮いた存在になってしまった。

どうしてあたしのことを誰も分かってくれないんだろう。

そんな悶々とした気持ちを抱えているとき、塾でずっと隣の席だった女の子が半泣きで叫んだ。

『あたしのポーチがない!』

そのポーチは数量限定のノベルティ品で電車に乗り2時間かけて買いに行ったと言っていた。

そのポーチをあたしはほぼ毎日のように目にしていた。

だから、間違えるはずがなかった。

同じ塾に通う一つ年下の道子という女の子がそれとまったく同じポーチをバッグの奥に忍ばせていることを。

『道子が持っている。あの子が盗んだに違いない』

隣の席の女の子に話すと、女の子は血走った眼で彼女の元へ行くと頬を叩いた。

そして、嫌がる彼女のバッグをひったくりポーチを引っ張り出した。

『どうして盗んだの!?ふざけんな!!』

大声で怒鳴りつけられた道子は『違います。これは私のポーチです。私も買いに行ったんです!』と泣きながら反論した。

でも、誰も信じる子などいなかった。

彼女の赤く腫れた頬を見てもあたしは何とも思わなかった。

人の物を盗んだりすればいつか天罰は下る。

自業自得なのだ。

でも、翌日になってあたしの隣の席の子は悪びれる様子もなくこう言った。

『これ、やっぱりあの子のポーチだったみたい。あたし、家にポーチ忘れてきちゃってただけだった』

道子は結局あれから塾に姿を現すことはなかった。

暴力を振るわれた恐怖からか塾を辞めた。

そして、それから学校へは通えなくなり精神的に落ち込んで引きこもりになってしまったと誰かが噂していた。

あたしも道子を犯人に仕立て上げたと周りの人たちに毎日のように責め立てられて塾を辞めた。

どうしてみんなあたしのことを分かってくれないんだろう。

どうして。どうして。どうして。

その頃から気持ちが不安定になり、あたしは母の勧めで心療内科を受診することになった。

精神安定剤を服用し、気持ちが昂らないように注意した。

医師にたくさんのアドバイスをもらい、それを実践することで高校では彩乃とエレナという親友もできた。

中学時代の教訓を生かし、あたしは高校では必死に自分の意見を言わないようにと努力した。

高齢者施設で傾聴ボランティアをして人の話を聞けない性格を直そうとした。

でも、どこか心の中にずっとくすぶるものがあった。

あたしはあたしなのに、どうして本当の自分を抑え込まないといけないの?
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