トモダチ地獄~狂気の仲良しごっこ~
まさか、本気じゃないよね……?親が子供を殺そうとするなんて道理に反している。

「お母さん……、助けて。助けてよ!!お父さんを止めて!!」

母はうつろな目で一点を見つめたまま微動だにしない。

じりじりと父が歩み寄ってくる。

「梨沙、お前は天使の仮面をかぶった悪魔だ」

目の前までやってきた父。

父の目には確かな決意が感じられる。

あたし、殺されるの……?

いや、そんなの絶対に嫌!!

あたしはとっさにリビングを飛び出して玄関に逃げた。

「梨沙!待ちなさい!!」

血走った眼で追いかけてくる父に恐怖を感じる。

あたしはとっさに靴箱の横の傘立てから先端がピンヒールのように尖った母のお気に入りの傘を掴んだ。

「こないで!」

「傘を置きなさい」

「いや!!」

「梨沙――!!」

父があたしに手を伸ばしてきた。あたしは弾かれたように傘の取っ手を両手で握り締め先端の尖った部分を父に向って力いっぱい振りかぶった。

傘の先端が父の顔面のどこかへぶつかった感触がした。

固くはない。やらわかい、どこかにぶつかった。

「うああああぁぁぁあーーー!!」

その瞬間、父は絶叫しその場にしゃがみ込む。

フローリングに血がポタポタと滴り落ちるのを呆然と見つめることしかできない。

思わず傘から手を離したものの、傘が床に落ちる気配はない。

父が肩を震わせるのに合わせて傘も小刻みにプルプルと震えている。

刺さった……。父の眼球に……?

あっという間にフローリングが血に染まる。

「あたしじゃない……あたしは悪くない!!」

「ま、待ちなさい……!!」

どこから血が出ているのか分からないぐらい顔面を血だらけにした父があたしに手を伸ばしてくる。

あまりの恐ろしさにあたしはきびすを返し、玄関を飛び出した。
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