トモダチ地獄~狂気の仲良しごっこ~
週に一度、あたしは近くの老人ホームで傾聴ボランティアをしていた。

傾聴とはその人の言葉に耳を傾けるだけではなく、その言葉の奥にある感情を汲み取り共感することだ。

学校にボランティアの募集が貼り出されているのを見て一度訪れてから、もう一年以上も続けている。

傾聴ボランティアはあたしの幼い心をとても成長させてくれた。

相手の気持ちになって考えることができるようになったのもきっとこのボランティアのおかげだろう。

入所者のおじいさんおばあさんの話はとても興味深く、その人の歩んできた人生について考えさせられた。

そして何より、コミュニケーションをとることが楽しかった。

ボランティアに参加した当初は声をかけてもかたくなに口を閉ざしていた人がある日突然自分から声をかけてきてくれて感動したこともある。

「また来たんだね。いらっしゃい」

認知症のおばあさんがあたしのことを覚えていてくれただけで嬉しかった。

ボランティアとはいえ、あたしはその行為に誇りをもって取り組んでいた。


「時代は変わったねぇ。昔はテレビなんてなかったんだよ」

椅子に座りにこやかに話す八木さん。

人見知りの八木さんも最初はあたしに心を閉ざしていた一人だ。

少しづつ信頼関係を作り上げてきたおかげで今ではこうやって普通に会話ができるようになった。

「そうなんですね」

「今はなんていうんだっけ?あの四角くて箱みたいな不思議な電話機もあるんだよねぇ」

「あぁ、スマートフォンですか?」

そう言ってスマホを差し出すと、八木さんは「そうそう」と笑顔で何度もうなずいた。

そのとき、ふと自分のスマホの画面に目が言った。

「えっ……なにこれ」

スマホに大量のメッセージが届いている。

その数にぞっとする。

「どうしたんだい?」

「あっ、ごめんなさい。なんでもないです」

八木さんを不安にさせないように微笑む。

でも、表情とは裏腹にあたしの胸の中がザワザワと不快な音を立てる。

メッセージの宛名は【薫子】だった。

今度は一体なに……?

あたしは不安を拭いとるようにスマホをポケットにしまい八木さんとの会話に集中した。
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