Love EaterⅡ


寧ろ気にするべきはこの空間に居るらしき第三者の存在。

正直、逃避していたい。

気づかぬフリで突き通したくも、既にこの間が空いた時点で不可能だ。

そんな風に諦め腹を括るとようやくソルトもぎこちない動きで体を捻りその人物を視界に映したのだ。

「お…お久しぶりです。…時雨(しぐれ)…さま」

「久しぶりですねえ、リッカ君。……なんかすみません。最後まで気配消しきれてたらよかったんですが」

「いや、寧ろすみませんでした。居ると思わずアホな悩みをお耳に入れてしまって…」

「いやいや、…若くて良い悩みですよ」

「っ…忘れてください」

何が切ないって。

人畜無害そうな穏やかな笑みでしみじみとアホ発言を反芻された事だろうか。

決して馬鹿して発した言葉ではないのであろう。…多分。

今も『若いっていいですねえ』なんて遠い目で呟き湯呑を口に運んでいるが、多分馬鹿にはしていない筈。

こういう人であるのだ。

この時雨という男は。

若さを尊むような言葉を弾くが決して自身が老いているわけではない。

確かにソルトよりかは幾ばくか年齢を重ねた容姿と佇まいではある。

それでも、見た目から憶測する年齢は30代の後半から40前半程ではないだろうか。

腰まである長い髪はソルトに負けず劣らず透き通るような金糸で、後ろで緩く二三編み込む感じに纏められている。

外出を知らないような肌は下手な女性より白く荒れしらず。

顔立ちもまた実に端正な造りで、長い睫毛の先まで洗練されている様に感じる。

そんな整ったパーツの上にちょこんと在る眼鏡もまた時雨の魅力を引き出しているアクセサリーの一つ。

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