春に溺れる

「だから、ほんとに違うんだって!!」

「え〜怪しいよ蜜乃ちゃん~~」


髪をゆるく巻いて、まつ毛をバレない程度に上げて、可愛い顔立ちをして頬を膨らませるこの女、和田 夢子のしつこさに、いい加減イライラしてくる。


時計は17時を回っている。そろそろ帰りたい。

なのに、さっきから夢子は私が中学校の時同じクラスで少し仲がよかった平田 煌と話しながら歩いていたことを勘違いし、さっきからこの調子だ。



「だからただの中学校の同級生だから!彼氏じゃないし好きでもないから!!!」


「だって蜜乃ちゃんが男の子と話してるとこ初めて見たんだもん~~!!」



その言葉に、ムッとする。

そりゃあいつも女子とばっかりつるんで男士には縁がないように見える私だけど、中学校の時はそれなりに男子と仲が良かったし、時々だけど告白されたりなんかもしてたわけで。

…いっつも男子に囲まれてチヤホヤされてる夢子に言われると、ちょっとムカつく。



「私だって夢子が見てないだけで男子と話すことぐらいあるよ?」


「え~~せっかく 蜜乃ちゃんにも春が来たと思ったのになあ〜」



春が来た、ってなんなんだ。

恋してない人は春を迎えてないってことか。

桜は満開だし、気温もぽかぽかあたたかくて、私もこうして新学期を迎えて、春の訪れを痛いくらいに実感しているというのに。

なんて世の中だ、と小さくつぶやくと、夢子に「またおじさんみたいなこと言うんだから」なんて言われてしまった。


高校二年生にもなって初恋がまだなんて、おかしい事なんだろうか。

周りは彼氏やら好きな人やらで泣いたり喜んだりいつも忙しそうで、将来のことでいっぱいいっぱいの私には、まだ必要のないことだなとも感じる。


納得してないような顔で隣を歩いている夢子も、恋愛体質と言うべきか、いつも恋をしていて、それもすぐ飽きるものだから彼氏も次々に変わっていく。

可愛いゆえに男がすぐに堕ちてしまうから、つまらないのだろう。

前に「追う恋の方が好きだ」と言っていたのを覚えている。



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