命の花が散る頃に。
1、花が散る時、死神が参ります
僕はローブを羽織って現世にある町を歩いていた。

ここは『現世』。生きている人間が住まう場所。

僕の名前はアルト。死神だ。僕が現世に行く際は、僕の同僚兼親友のハヤトが付けてくれた「優斗(ゆうと)」と名乗ってる。

「……後5分」

僕は時計で時間を確認し、深いため息をついた。僕の片手には死神用折りたたみ式携帯型通信機(略称『通信機』)が握られている。この通信機は、現世にあるケイタイとやらにそっくりらしい。

違うことといえば、今日亡くなる方の情報が乗っていたり、霊界での情報などが乗っていることくらいかな?

「……深夜1時57分。××病院で病気にて死亡……深夜2時丁度。××公園付近にて事故死。深夜2時30分。夫婦喧嘩で死亡……最後のこれ、最悪物の怪(もののけ)になるパターンじゃ……てか、僕を寝かせる気無いでしょ!うちの上司は……!」

僕は資料(亡くなる人の情報などが詳しく書かれているデータのこと)を読みながらベンチに座った。物の怪とは、人に取り憑いたりして悪さをする霊――俗に言う悪霊のこと。

僕ら死神は、霊を特殊な刀で斬り、成仏をした霊が住まう場所『霊界』へ導いてる。また、刀には死してなお、肉体から離れない魂を霊界へ導く力を持つんだ。

また、魂が成仏するまでを見届けるのも死神の仕事。

「……そろそろ向かうか」

ローブの内ポケットに折りたたんだ通信機を突っ込み、地面を蹴って空高く跳んだ。屋根を伝い、目的地に向かう。フードを深く被り、壁をすり抜けた(フードを被ると壁や人をすり抜けることが出来る)。

「……初めてまして。僕は死神です。お迎えに参りました」

僕が微笑むと、白髪頭のおじいさんは僕を見つめて「そうか…」と悲しそうに目を伏せた。

「……未練があるのですか?あるんでしたら、僕がお手伝いしますが…」

「無い…やっとばあさんに会える……」

そう言っておじいさんは目を閉じた。僕は何も無いところから全てが真っ黒に染まった刀を作り出して、おじいさんの胸に刀を突き立てる。

この刀は、魂にしか影響がなく肉体は損傷しないんだ。

僕は刀を消すと、次の仕事場所に急いで向かった。
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