コンビニバイト店員の私が、気になるあの人
期末テストの結果、凄まじくヤバかったな私。
でもそれで別に困ることないし、気にしないでいよう。
うんうん。
春休み中に取り戻せばまだ全然大丈夫。
むしろ、今後の私の伸び代を考えれば、今回くらいの順位の方が私の勉強のモチベーションにも繋がるし、これはもはや良かったことだと考えるべきだ。
「早く帰って、昨日録画した『怪盗少年カレイ』の最終回観よっと。」
「おぉい、待てぇ。」
その声と、その場で直立不動になった私の体の反応で、後ろを振り向かなくてもその人物が誰だか察した。
待てと言われれば、私の意思に関係なく体が勝手に待つのだ。
“奴”だ!
「お前、桜子だよなぁ。」
「……はぃ。」
「……桜子でいいんだよなぁ!!」
「はぁぁい!そうです!」
「お前ぇ、何でもう帰ろうとしてんだよぉ。おかしいだろぉお前よぉ。自分のやらかした事分かってねぇのかよぉ。」
「や、……やらかした事ですか?何をですか?」
分かりきった質問をしているのは自分でも分かっていた。
心当たりしか思い浮かばない。思い浮かびすぎて、逆にどれのことを言っているのか確認してしまった。
「全部言ったらお前、春休みに突入しちまうだろうがよぉ。」
そんなにあるのか、私、ヤバ。
「お前のテストの話に決まってんだろぉ。」
ですよねえ。
「この学校の教育方針は知ってるだろぉ。基本的に何かしら最低基準を満たしてれば在学を認めるっつう方針だけどよぉ。ただよぉ、お前に関しては何も満たしてねぇ。全く何もだ。この仕事を俺ぁ8年やってきたが、お前みたいな奴初めてだぞぉ。」
気が合った。
私も、自分以下の人間を見たことがない。
ちなみに、そんな方針があることなんて勿論私は知らなかったけど、そこは触れないでおこう。
「お前以外の奴は、勉強とか部活とかして、最低限多少の努力をするのが人として当たり前の、自動的な仕組みみたいなもんなんだけどなぁ。お前は何をしてんだぁ。」
何もしてませんでした。
「まあ、このまま話してたら本当に春休みに突入しちまうからこの辺にしといてやるけどよぉ。」
ふぅ、やれやれやっとか。
私には『怪盗少年カレイ』の最終回を見るという、人生史上最優先の大事な大事な予定があるんだから、つまらないお説教なんかやめて、早く家に帰して欲しいわ。
「取り敢えずお前、今日で退学だからな。」
「分かりました。」
……。
……って。
「…………しぇぇぇぇぇえ?」
「いや、ええ?じゃねえよぉ。俺がええ?だぁ。当たり前だろ。お前何もしてないんだからよぉ。どういう神経してんだよぉ。それすら分かんねぇのかよ、もうヤベぇぞ?」
「せせせせ、先生。……な、何かないですか?……その、……生き残る手段は!」
自分でも驚くほど狼狽えた。いつも当たり前に通っていた学校に、3年生から通えなくなるということが、思いのほか衝撃だった。
別にやりたい事も、好きな事も、友達も、何もこの学校には無いけれども、いきなり退学と言われると、それはもうなんかさ、
……なんか違うじゃん!
しかし、桃原学年主任は意外にもあっさりと。
「あるぞぉ。」
と、答えた。
そして、私の学校指定の鞄の外ポケットに一枚の紙を捻じ込み、さらに続けた。
「働けぇ。何もないお前にはもうそれしかねぇ。お前ごときでも雇ってくれるっていう有難いバイト先が唯一一店舗だけ、見つかったぁ。今渡した用紙が、そのバイト先の契約書だぁ。そんで春休み明け、つまり始業式が終わりホームルームが終わった後、お前の教室に俺がその用紙を回収しに行くからぁ、お前はそれを持ってこい。そうすればお前は退学しないで済む。簡単な話だぁ。意味分かるよなぁ。自分の名前を紙に書くだけで、退学しないで済むんだからよぉ。幼稚園児でもできる事だぁ。分かったなぁ?」
私の選択肢が、働く一択のみだということがよく分かった。
このときの私には、『怪盗少年カレイ』の最終回の事など、すでに頭の中にはなかった。
「それと、最後に」
と、桃原学年主任は私の耳元でそっと囁いた。
「お前、人が話してる時はその人の方見ろボケぇ。」
それは私のせいじゃない。
でもそれで別に困ることないし、気にしないでいよう。
うんうん。
春休み中に取り戻せばまだ全然大丈夫。
むしろ、今後の私の伸び代を考えれば、今回くらいの順位の方が私の勉強のモチベーションにも繋がるし、これはもはや良かったことだと考えるべきだ。
「早く帰って、昨日録画した『怪盗少年カレイ』の最終回観よっと。」
「おぉい、待てぇ。」
その声と、その場で直立不動になった私の体の反応で、後ろを振り向かなくてもその人物が誰だか察した。
待てと言われれば、私の意思に関係なく体が勝手に待つのだ。
“奴”だ!
「お前、桜子だよなぁ。」
「……はぃ。」
「……桜子でいいんだよなぁ!!」
「はぁぁい!そうです!」
「お前ぇ、何でもう帰ろうとしてんだよぉ。おかしいだろぉお前よぉ。自分のやらかした事分かってねぇのかよぉ。」
「や、……やらかした事ですか?何をですか?」
分かりきった質問をしているのは自分でも分かっていた。
心当たりしか思い浮かばない。思い浮かびすぎて、逆にどれのことを言っているのか確認してしまった。
「全部言ったらお前、春休みに突入しちまうだろうがよぉ。」
そんなにあるのか、私、ヤバ。
「お前のテストの話に決まってんだろぉ。」
ですよねえ。
「この学校の教育方針は知ってるだろぉ。基本的に何かしら最低基準を満たしてれば在学を認めるっつう方針だけどよぉ。ただよぉ、お前に関しては何も満たしてねぇ。全く何もだ。この仕事を俺ぁ8年やってきたが、お前みたいな奴初めてだぞぉ。」
気が合った。
私も、自分以下の人間を見たことがない。
ちなみに、そんな方針があることなんて勿論私は知らなかったけど、そこは触れないでおこう。
「お前以外の奴は、勉強とか部活とかして、最低限多少の努力をするのが人として当たり前の、自動的な仕組みみたいなもんなんだけどなぁ。お前は何をしてんだぁ。」
何もしてませんでした。
「まあ、このまま話してたら本当に春休みに突入しちまうからこの辺にしといてやるけどよぉ。」
ふぅ、やれやれやっとか。
私には『怪盗少年カレイ』の最終回を見るという、人生史上最優先の大事な大事な予定があるんだから、つまらないお説教なんかやめて、早く家に帰して欲しいわ。
「取り敢えずお前、今日で退学だからな。」
「分かりました。」
……。
……って。
「…………しぇぇぇぇぇえ?」
「いや、ええ?じゃねえよぉ。俺がええ?だぁ。当たり前だろ。お前何もしてないんだからよぉ。どういう神経してんだよぉ。それすら分かんねぇのかよ、もうヤベぇぞ?」
「せせせせ、先生。……な、何かないですか?……その、……生き残る手段は!」
自分でも驚くほど狼狽えた。いつも当たり前に通っていた学校に、3年生から通えなくなるということが、思いのほか衝撃だった。
別にやりたい事も、好きな事も、友達も、何もこの学校には無いけれども、いきなり退学と言われると、それはもうなんかさ、
……なんか違うじゃん!
しかし、桃原学年主任は意外にもあっさりと。
「あるぞぉ。」
と、答えた。
そして、私の学校指定の鞄の外ポケットに一枚の紙を捻じ込み、さらに続けた。
「働けぇ。何もないお前にはもうそれしかねぇ。お前ごときでも雇ってくれるっていう有難いバイト先が唯一一店舗だけ、見つかったぁ。今渡した用紙が、そのバイト先の契約書だぁ。そんで春休み明け、つまり始業式が終わりホームルームが終わった後、お前の教室に俺がその用紙を回収しに行くからぁ、お前はそれを持ってこい。そうすればお前は退学しないで済む。簡単な話だぁ。意味分かるよなぁ。自分の名前を紙に書くだけで、退学しないで済むんだからよぉ。幼稚園児でもできる事だぁ。分かったなぁ?」
私の選択肢が、働く一択のみだということがよく分かった。
このときの私には、『怪盗少年カレイ』の最終回の事など、すでに頭の中にはなかった。
「それと、最後に」
と、桃原学年主任は私の耳元でそっと囁いた。
「お前、人が話してる時はその人の方見ろボケぇ。」
それは私のせいじゃない。